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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2734号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 子安不動産株式会社

右代表者代表取締役 田中静

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 武田隆彌

被控訴人(附帯控訴人) 柳田光司

右訴訟代理人弁護士 小田切登

主文

一  原判決中控訴人(附帯被控訴人)子安不動産株式会社及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社田中建設に関する部分を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)子安不動産株式会社及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社田中建設は、被控訴人(附帯控訴人)柳田光司に対し、各自金二四五三万円及びこれに対する昭和五五年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二  控訴人株式会社新郊ハウジングの控訴を棄却する。

三  本件附帯控訴を棄却する。

四  控訴につき訴訟費用は、第一、第二審を通じて、被控訴人(附帯控訴人)と控訴人(附帯被控訴人)子安不動産株式会社及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社田中建設との間に生じたものはこれを二分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)子安不動産株式会社及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社田中建設の各負担とし、被控訴人(附帯控訴人)と控訴人株式会社新郊ハウジングとの間に生じたものは全部控訴人株式会社新郊ハウジングの負担とし、附帯控訴につき控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

五  この判決は、第一項1に限り、仮に執行することができる。

事実

一  控訴人(附帯被控訴人)子安不動産株式会社(以下「控訴人子安不動産」という。)及び控訴人(附帯被控訴人)株式会社田中建設(以下「控訴人田中建設」という。)は「(一)、原判決中控訴人子安不動産及び同田中建設の敗訴部分を取り消す。(二)、被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。(三)、本件附帯控訴を棄却する。(四)、訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人株式会社新郊ハウジング(以下「控訴人新郊ハウジング」という。)は「(一)、原判決中控訴人新郊ハウジングに関する部分を取り消す。(二)、被控訴人は控訴人新郊ハウジングに対し、金八九八万円及びこれに対する昭和五五年一一月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(三)、訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに(二)につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として「原判決を次のとおり変更する。(一)、控訴人子安不動産、同田中建設は、被控訴人に対し、各自金八四五三万五四〇〇円及びこれに対する昭和五五年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二)、控訴人子安不動産、同田中建設は、被控訴人に対し、各自原判決添付の別紙目録四記載の建物部分を引渡し、かつ、昭和五三年八月一日から右引渡ずみまで月額金一万五〇〇〇円の割合による金員を支払え。(三)、訴訟費用は第一、第二審とも控訴人子安不動産及び同田中建設の負担とする。」との判決並びに(一)及び(二)につき仮執行の宣言を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり改め、付加するほかは、原判決事実摘示「第二、当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四丁表二行目に「(甲事件について)」とあるのを「(原審昭和五五年(ワ)第一三五六四号事件((以下「甲事件」という。))について)」と、同丁表四行目に「甲、乙両事件」とあるのを「甲事件及び原審昭和五五年(ワ)第一二三四六号事件((以下「乙事件」という。))」と、同五丁表六行目に「無償で店舗用に改装すること。」とあるのを「無償で店舗に改装して被控訴人に引渡すこと。」とそれぞれ改め、同五丁裏一一行目末尾に続けて以下のとおり付加する。

「なお、右は、建築基準法五二条の規定する容積率の制限に違反するというものであるが、容積率なるものは都市政策上の規制であって、流動的なものであるから、これに違反するからといって私法上の効力を否定する程の著しい違法性があるということはできず、前記契約は社会通念上原始的不能とみるべきではない。」

2  原判決七丁裏一〇行目の次に改行して以下のとおり付加する。

「8 (予備的主張)

(一)  仮に、控訴人子安不動産及び同田中建設が被控訴人に対して負担する本件一階部分を店舗に改装して引渡す債務が、建築基準法に違反し、原始的不能であるとするならば、右当事者間の本件交換契約は双務契約であり、かつ、右店舗の引渡債務と対価関係にある被控訴人の本件土地所有権移転債務はその性質上分割履行が不可能であるから、本件交換契約全体が無効となり、控訴人子安不動産は有効に本件土地所有権を取得し得ない。

(二)  ところが、右の控訴人らは、本件土地上の建物のうち、被控訴人に分譲した部分を除く全部を第三者に売却処分したため、本件全体建物の収去は不可能となり、被控訴人が本件土地の所有権に基づく妨害排除請求権による明渡請求も、社会的、法律的に殆んど不可能である。

(三)  被控訴人は、本件土地の価格である一億一〇五〇万八〇〇〇円及び少くとも昭和五二年七月五日から同六〇年七月四日までの八年間本件土地を駐車場(本件交換契約前は駐車場として使用収益していた。)として使用継続したときに得られるのであろう収益一一五二万円、合計一億二二〇二万八〇〇〇円の損害を被った。

(四)  よって、被控訴人は、控訴人子安不動産及び同田中建設に対し、右損害賠償請求権の内金八四五三万五四〇〇円の支払を求める。」

3  同八丁表二行目の「同2、3の事実はいずれも否認する。」の次に「控訴人子安不動産は被控訴人に対し、本件一階部分につき、店舗として引渡すことを約したものでも、店舗として使用することが可能である旨保証したものでもなく、単に店舗用の内装工事をすることを約したにすぎない。」と、同丁裏四行目の末尾に続けて「また、被控訴人は、本件交換契約において結局価格四八八〇万円の建物(敷地価格を除く。)を取得しながら、価格三一一五万円相当の本件土地所有権(本件建物の総販売額二億〇三八〇万円((一階部分は駐車場として計算))から建築総費用一億五一〇〇万円を控除した五二八〇万円((本件土地の更地価格))の五九パーセントに当る敷地持分の価格)を控訴人子安不動産に対して給付したのにすぎないから、損害はなく、逆に一七六五万円の利得を受けているのである。」と、更に改行して「6 同8の予備的主張は時機に遅れた攻撃方法であって民訴法一三九条により許されない。また、被控訴人は原始的不能を主張するが、本件は単に一部不能の問題であって本件交換契約全体が無効になるものではない。」とそれぞれ付加する。

4  同八丁裏六行目冒頭に「1」と付加し、同九丁裏一〇行目の次に改行して以下のとおり付加する。

「2 (過失相殺)

控訴人子安不動産及び同田中建設の担当者小谷豊は、本件一階部分を店舗として使用することの違法と危険とを被控訴人側の交渉相手である同人の妻柳田百合子に十分説明しているのに、同人は積極的に交渉に臨み建築基準法違反のため一階部分が店舗とすることが実現できない事態の生ずる危険性のあることを軽視し、更には公証人の助言をも無視して本件交換契約を締結し、しかも不当な利益を得ているのであるから、その過失の割合は、控訴人子安不動産及び同田中建設よりも被控訴人側が大きいものというべきである。」

5  同一〇丁表一行目に「抗弁事実のうち、」とあるのを「抗弁1の事実中、」と改め、同丁表四行目末尾に「抗弁2の事実は否認する。本件交換契約締結に至った経過は、請求原因5記載のとおりで、被控訴人側に斟酌されるべき過失はない。」と付加する。

三  《証拠関係省略》

理由

第一  甲事件について

当裁判所は、被控訴人柳田の本訴請求中控訴人子安不動産、同田中建設に対し、不法行為による損害賠償として各自二四五三万円及びこれに対する昭和五五年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余の金員の支払を求める部分及び本件四建物部分についての引渡等を求める部分は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり改め、付加するほかは、原判決理由説示(原判決一五丁表三行目冒頭から同二三丁表三行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一七丁裏四行目の「右4のような」から同丁裏一一行目末尾までを「右4のような建築基準法の脱法行為は、駐車施設等の設置を容易にし、車庫不足及び駐車難を緩和するため、容積率制限の規定の適用にあたり、これら施設部分の床面積を算入しないこととしたと解される同法施行令二条一項四号の規定を悪用しようとするものであり、小谷豊は、右の方法は建築基準法に違反し、法の許容しないものであるから店舗として使用できない事態があり得ることを認識していたものの、当時他にも右のような脱法行為を行っている業者が存在し、現に控訴人田中建設もさきにマンション「モナーク千駄木」を建築した際、同じ方法を利用しており、本件においても竣工検査まで一階部分の構造・用途を駐車場としておき、右検査に合格した後、その構造・用途を店舗に変更すれば事実上店舗として使用することが可能になると考え、その旨を被控訴人の代理人柳田百合子に説明したこと、百合子は、弟の幸田実らと右の説明を受け、建築基準法に違反し、法の許容しないものであることを十分了知したが、右小谷の説明を一応信用し、右の方法によれば、以後事実上店舗として使用することができるものと考えてこれを承諾し、本件交換契約を締結したこと、」と改める。

2  同一八丁表五、六行目の「登場し、」の次に「本件交換契約締結の際、」と付加する。

3  同一九丁表一行目に「無償で店舗用に改装する旨の約定」とあるのを「店舗に改装して引渡す旨の約定」と、同丁表四、五行目に「乙第四号証の二ないし四、六」とあるのを「乙第四号証の一ないし七」とそれぞれ改め、同丁裏五行目の「左右するに足りない。」の次に「なお、本件土地の更地価格の点については後述する。」と付加する。

4  同二〇丁表八、九行目にかけて「法的客観的にみて、原始的に履行が不能であった」とあるのを「法的客観的にみて、本件交換契約全体の債務のうち右の部分の債務が原始的に一部履行不能であった」と改める。

5  同二〇丁表末行の次に行を改め、次のとおり付加する。

ところで、被控訴人は控訴人子安不動産が被控訴人に対して負担する本件一階部分を店舗に改装して引渡す債務が建築基準法に違反することにより原始的不能であるとするならば、本件交換契約全体が無効になる旨主張する(この点右控訴人らは、右主張は時機に遅れた攻撃方法であって民訴法一三九条により許されない旨主張するが、本件訴訟の経過からして、右主張の提出が訴訟の完結を遅延させるものとは認められないので控訴人らの主張は理由がない。)が、右の部分は本件契約の一部にすぎないうえ、既に本件建物が完成してその多くは他に分譲されていることを併せ考えると、右の部分が無効であるからといって本件交換契約全体が無効となるものではないと解するのが相当であり、被控訴人の主張は理由がない。」

6  同二〇丁裏八行目の「不可能であることを知りながら」とあるのを「法的客観的にみて不可能であることを知りながら」と改める。

7  同二一丁表六行目冒頭から同丁裏三行目までを次のとおり改める。

「他方、前記認定の事実によれば、被控訴人柳田の代理人として本件交換契約の交渉にあたった柳田百合子は、控訴人田中建設の担当者である小谷豊から本件交換契約の締結に際し、本件一階部分を店舗とすることは建築基準法に違反することの説明を受けてこれを十分了知し、法の適正な執行により右の一階部分を店舗とすることが実現できない事態の生ずることを予期すべきであるのに、右のような事態は生じないとする小谷の言を安易に信用して本件交換契約を締結するに至ったものであるから、本件不法行為による損害の発生につき被控訴人にも過失があったものというべきであり、その過失割合は、右過失の態様等を考慮するならば約四割と認めるのが相当である。

8  同二一丁裏六行目冒頭から同一一行目までを次のとおり改める。

「被控訴人は本件一階部分が約定どおり店舗として引渡された場合他に賃貸して賃料が得られた筈で、これを得ることができなくなったから損害が生じた旨主張するが、同損害はそもそも後記(二)の損害に含まれ、独立の損害とはなり得ないものと解されるから、これを認めることはできない。」

9  同二二丁表八行目の次に改行して次のとおり付加する。

「控訴人子安不動産及び同田中建設は、本件土地の価格は五二八〇万円であり、被控訴人が取得した本件一階の駐車場と居宅四戸分の価格(敷地持分の価格を除く。)は被控訴人が提供した敷地持分の価格より一七六五万円も多いので被控訴人には損害がない旨主張する。

しかしながら、右の控訴人らの主張する本件土地の価格の評価方法は更地を評価する場合の不動産評価の方法として一般的に妥当性を有するか疑問があるばかりでなく、総販売額を算出するにつき本件一階部分を駐車場として試算し、店舗として被控訴人に引渡す約定の存在を度外視しており、また、仮に、本件建物の総販売額及び建築総費用が控訴人らの主張するとおりであるとするならば、結局本件土地の更地価格は一平方メートル当り二二万四五六一円(《証拠省略》によると本件土地の実測面積は二三五・一二五平方メートルであることが認められるから、五二八〇万円を右の面積で除した金額)となり、右の価格は《証拠省略》によって認められる本件土地周辺の基準地(豊島区要町一丁目九番二三、一平方メートル当り四四万六〇〇〇円)及び取引事例(一平方メートル当り三一万七六〇〇円ないし五四万四〇〇〇円)に照らし、余りにも低価格であり、到底適正なものとはいえず、右控訴人らの主張は採用の限りでない。」

10  同二二丁裏一行目及び一〇行目の「二八六〇万円」とあるのを「二四五三万円」と改める。

第二  乙事件について

当裁判所も控訴人新郊ハウジングの本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決の理由説示(原判決二三丁表五行目冒頭から同二七丁裏五行目末尾まで)のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二五丁七、八行目に「原告新郊ハウジングのあっせんで移転先を見つけ」とあるのを「菊池のあっせんを受けたりしたが、結局自ら移転先を見つけ」と、同二六丁裏八行目に「前掲甲第一四、第一五号証」とあるのを「前掲甲第一五号証」と、同二七丁表九、一〇行目に「請求原因3」とあるのを「請求原因3(1)」と、同丁裏二行目に「請求原因3(二)」とあるのを「請求原因3(2)」と、同丁裏五行目に「請求原因3(三)」とあるのを「請求原因3(3)」と、それぞれ改める。)。

第三  以上の次第であるから、甲事件については、被控訴人の本訴請求は、控訴人子安不動産、同田中建設に対し、各自二四五三万円及びこれに対する昭和五五年一〇月八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余はいずれも失当であるから棄却することとし、右の結論と一部異なる原判決を右のとおり変更し、附帯控訴は理由がないから棄却することとし、乙事件については、控訴人新郊ハウジングの請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九五条、九二条、九三条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川昭二郎 裁判官 鈴木経夫 裁判官佐藤康は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 小川昭二郎)

〈以下省略〉

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